📚 (5-2) スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【相似則の利用】
- #乳化撹拌装置
- #乳化
- #エマルション
- #スケールアップ
“幾何学的相似”と“力学・運動学的相似”
「スケールアップ理論を考えてみようー乳化編【スケールアップによる製造規模の変更】」のページではシチューを作ることを考え,“相似則”の関係について触れました。
そして,乳化撹拌装置を使用したスケールアップにおいても,機械的な力を等しくするために“相似則”の関係を採用することを考えます。
ここでは,相似側を大きく2つに分けて考えることにします。
幾何学的相似
撹拌羽根やタンクの形状に着目します。
このとき,これらの形状を維持したまま比例して大きくするときの相似を“幾何学的相似”と呼ばれています。
例えば,右図では撹拌羽根の径Dとタンク径Rに着目しています。
そして,これらの形状を維持したまま比例して大きくなっているので,D/Rが一定になっていることがわかります。
このように,試験機と生産機の幾何形状を同一にし寸法比を一定にすることで,スケールアップが成功すると考えることができます。
力学・運動学的相似
“力学的相似”と“運動学的相似”を1つにまとめてしまい,“力学・運動学的相似”というものを考えます。
不正確な面もありますが,これは“幾何学的相似”で示した形状に関するもの以外が比例して大きくなる,もしくは一定となる考え方です。
例えば,右図では撹拌レイノルズ数Reに着目しています。
そして,撹拌レイノルズ数Reが一定となるように,撹拌条件を決定していることがわかります。
このように,試験機と生産機の撹拌に係るパラメータを等しくすることで,スケールアップが成功すると考えることができます。
📝[memo] 「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌による槽内の流動】」のページで,撹拌レイノルズ数について説明しています。
各種計算式
このように,“幾何学的相似”と“力学・運動学的相似”を適用することを考えると,様々な関係性を計算式として表現することができます。
下図は,その一例を示したものです。
このとき,これらをすべて満たすような条件を設定することができれば,スケールアップが成功すると考えることができます。
しかしながら,実際にはそのようなことはできません。
そのため,スケールアップに大きく寄与する因子(絶対に再現しなければならない因子)を明確にして,どの条件を優先的に適用すべきかを考えることになります。
高速撹拌機における幾何学的相似条件
最初に,幾何学的相似条件から考えてみましょう。
高速撹拌機と低速撹拌機を比較してみます。
📝[memo] ここからは乳化工程を中心に考えるので,高速撹拌機の話がメインとなります。
高速撹拌機と低速撹拌機
代表的な高速撹拌機としてホモミキサーが挙げられます。
ホモミキサーが備え付けられた乳化撹拌装置の現状について確認しておきましょう。
ここで,撹拌羽根の径Dとタンク径Rに着目します。
幾何学的相似を満たすためには,上述したようにD/Rが一定になることが求められます。
そこで,実績のある様々な大きさの乳化撹拌装置を調べてみると,必ずしもD/Rが一定にはなっていません。
その理由は,「スケールアップ理論を考えてみようー乳化編【スケールアップによる製造規模の変更】」のページで紹介したように,大きな撹拌羽根を高速で回転させるためには経済性や技術的な問題から採用できないという事情があるためです。
したがって,D/Rが一定になるように撹拌羽根を大きくできないということがわかります。
📝[memo] ホモミキサー自身の構造はほぼ幾何学的相似を満たしていると言えますが,タンクとのバランスは異なるということですね。
一方,代表的な低速撹拌機であるパドルミキサーで考えてみます。
低速撹拌機は当社以外の撹拌機メーカーが得意とするところですが,基本的に幾何学的相似は満たされるように製作されています。
幾何学的相似の関係式と未知数の数
高速撹拌機では,幾何学的相似を満たすことが困難であることがわかりました。
このとき,どのような不都合な点が生じてくるのでしょうか?
撹拌機である以上,高速・低速に関わらず求めたい未知数は同じはずです。
例えば,回転数や乳化時間/撹拌時間が未知数として挙げられます。
高速撹拌機で幾何学的相似を満たさないということは,幾何学的相似に関係する式の数がない(少ない)ことを意味します。
ここで,中学の数学の授業で学習した「連立方程式」について振り返ってみましょう。
2つの未知数xとyを求めるとき,xとyに関係する式は2つ必要でした。
3つの未知数xとyとzを求めるとき,xとyとzに関係する式は3つ必要でした。
…というように,未知数の数の分だけ関係式の数が必要になります。
以上より,高速撹拌機だけが幾何学的相似を満たしていないことから,求めたい未知数を計算できない可能性が生じます。
そのため,他の相似条件を適用することで,高速撹拌機で使用できる関係式の数を増やさなければなりません。
すなわち,”幾何学的相似”以外の“力学・運動学的相似”を満たすことを考えることになります。
同じ撹拌機であっても,回転数の違い(高速と低速)によってこのような違いが表れてきます。
”スケールアップの考え方”の整理⑴
スケールアップの考え方について様々なテーマが出てきたので,ここで一旦整理をしておくことにしましょう。
乳化撹拌装置を使用したスケールアップを考えるにあたって,機械的な力を等しくするために“相似則”の関係を採用することを考えました。
そして,相似側は「幾何学的相似」と「力学・運動学的相似」の2つに分けて考えることにしました。
そこで,最初に幾何学的相似について考えましたが,高速撹拌機では満たすことはできないという問題が生じました。
すなわち,撹拌羽根の径が任意の大きさであり確定しません。
「Introduction【全体イメージ】」のページでも紹介しましたが,こうしたところが高速撹拌機が例外的な位置づけであると言われる所以でもあります。
同じ撹拌機であっても,回転数(高速と低速)によってこのような違いが表れてきます。
📝[memo] 低速撹拌機では,基本的にこのような問題は生じません。
以上の考え方をまとめると,下図のように表すことができます。
現段階で説明していない箇所は”?”としています。
次に,低速撹拌機(一般的な撹拌機)における撹拌時間の考え方について紹介します。
表の”?”を順番に埋めていきましょう。