📚 (5-1) スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【スケールアップによる製造規模の変更】
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スケールアップは製造規模の10倍ずつが基本
ここからは,実際の乳化撹拌装置を使用して,実際にスケールアップをすることを考えていきます。
まずは,乳化工程を中心に着目したいと思います。
この「カクハンラボ」では,試験機と言えば3 L,中間機と言えば25 L,生産機と言えば250 Lの乳化撹拌装置であると仮定して話を進めていきます。
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例えば,試験機で試作した結果,良いサンプルを調製することができたとします。
そこで,生産機を使用して実際に製品を製造してみよう!となるのですが,先に中間機で試作をしてみよう!というのがここでの話です。
📝[memo] 中間機での試作の後に,生産機を使用して実際に製品を製造することを考えます。
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乳化槽の大きさまたは製品の標準仕込量が試験機の10倍程度大きくなるように,中間機を設定します。
このように,「スケールアップは製造規模の10倍ずつ」変化させて検討していくことが,基本的な考え方になります。
これは,当社の経験則からこのように検証したほうがスケールアップを検討しやすいということもありますが,外部の指針(例えばWHOや EMEA等)でも品質にほとんど影響を与えない製造規模の変更として0.1~10倍が示されています。
📝[memo] 試験機と中間機を比較してみると,乳化槽の大きさまたは製品の標準仕込量だけではなく,高速撹拌機であるホモミキサーの羽根径や回転数も異なっています。
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回転数・乳化時間一定の条件
例えば,試験機で乳化工程を検討した結果,ホモミキサーの回転数が7000 [r/min],乳化時間が1 [min]のときに最適であったとします。
このとき,試験機の次は中間機で試作をしてみる!という話だったので,中間機においてもホモミキサーの回転数が7000 [r/min],乳化時間が1 [min]のときの検証をしてみよう!という考え方ができます。
しかしながら,この考え方は間違いになります。
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…というのも,乳化撹拌装置が大きくなったときに,試験機と同じホモミキサーの回転数・乳化時間を設定するのは困難だからです。
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大きな撹拌羽根を高速で回転させるためには,非常に大きなモータを必要とします。
📝[memo] 通常,高速とされる回転数は3500 [r/min]程度なので,回転数が7000 [r/min]であることは超高速のイメージです。
📝[memo] 試験機のように比較的小さな撹拌羽根の場合に限っては,回転数が7000 [r/min]という超高速であっても採用しています。
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モータが大きくなると,高コストになることが想像できます。
さらに,モータを設置するフレームも大きくしたり,このフレームを昇降するための油圧シリンダーも大きくせざるを得ません。
📝[memo] このように考えると,乳化撹拌装置に要するコストが高くなっていきます。
また,モータのトルクに耐えられるように撹拌羽根と接続するシャフト(軸)を太くしなければ,破断してしまうことも考えられます。
📝[memo] 技術的な対策も必要です。
したがって,実務では経済性や技術的な問題から採用できないという事情があります。
こうした理由から,スケールアップ前後でホモミキサーの回転数・乳化時間を一定とすることはできません。
したがって,試験機でホモミキサーの最適な回転数・乳化時間を決めたにも関わらず,生産機におけるホモミキサーの回転数・乳化時間を改めて決める必要が出てくるのです。
📝[memo] 「スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【ホモミキサーによる微細化作用とスケールアップ計算式】」のページで,このときの考え方について説明します。
バッチ生産方式によるスケールアップ
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「スケールアップは製造規模の10倍ずつ」変化させて検討していくことが,基本的な考え方になると説明しました。
ここで,バッチ生産方式によるスケールアップについてイメージすることを考えましょう。
バッチ生産方式については,「撹拌をやさしく捉えてみよう【乳化撹拌装置における設備上の特徴】」のページで紹介しました。
乳化撹拌装置を使用したスケールアップ
例えば,シチューを作ることを考えます。
シチュー1人前から10人前を作るために,スケールアップをする状況を想像してみてください。
まず,「シチュー10人前を1人前×10回で作る」という方法が考えられます。
ここで紹介している乳化撹拌装置を使用したスケールアップは,このようなことを意味するものではありません。
このような考え方では,中間機を使用しなくても試験機で10回に分けて調製すればよい!ということになってしまいます。
📝[memo] 中間機や生産機を使用しなければ,スケールアップをするとは言えませんよね。
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そこで,「シチュー10人前を10人前×1回で作る」という手法を考えます。
この考え方は,中間機や生産機を使用して1回で調製することを意味しています。
したがって,乳化撹拌装置を使用したスケールアップはこちらのイメージになります。
ただ,シチュー10人前を10人前×1回で作るとき,シチュー1人前を作るときと全く同じ条件ではダメのような気がしませんか?
シチューの混ぜ方を工夫する必要がありそうだな…であったり,火加減に注意しないといけないな…というところが想像できるかと思います。
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相似則の考え
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シチュー10人前を10人前×1回で作るとき,どのような考え方ができるでしょうか?
例えば,次のようなことが想像できるかもしれません。
① 形が同じで,10倍の大きさの鍋・お玉を使用すると良いのではないか?
② シチューが動く速度を同じにすると良いのではないか?
③ 温度の上げ方を同じにすると良いのではないか?
…
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①~③の内容は,“相似則”の関係に基づいて考えられていると言えます。
すなわち,何らかの基準に基づいて比例倍していることがわかります。
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① 形が同じ 👉 (シチュー10人前)=(シチュー1人前)× 1
10倍の大きさ 👉 (シチュー10人前)=(シチュー1人前)× 10
② シチューが動く速度を同じ 👉 (シチュー10人前)=(シチュー1人前)× 1
③ 温度の上げ方を同じ 👉 (シチュー10人前)=(シチュー1人前)× 1
📝[memo] シチュー10人前の条件が,シチュー1人前に対して比例倍となっています。
そこで,乳化撹拌装置を使用したスケールアップにおいても,機械的な力を等しくするために“相似則”の関係を採用することを考えます。