📚 (4-10) スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの粘度特性②】
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半固形製剤の流動学的測定法(展延性試験)
難しいタイトルですが,「スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの粘度特性①】」のページの続きとなります。
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せん断応力τが大きくなると,ニュートン流体よりせん断速度ṙが大きくなりエマルションが容易に流動することがわかりました(赤線A)。
一方で,我々がせん断応力τが大きい!と思っていても,実際は,見かけ上の粘度低下が見られないかもしれません。(緑線B)
付与されるせん断応力τの大きさによってエマルションで見られる流動特性が異なるので,これを指標の1つとして考えたいところです。
一方で,見かけ上の粘度低下が見られたとしても,その挙動については触れませんでした。
もしかしたら,ゆっくりと粘度低下していくかもしれません。(青線C)
見かけ上の粘度低下の仕方によってエマルションで見られる流動特性が異なるので,これも指標の1つとして考えたいところです。
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このように粘度について踏み込んで考えてみると,「スケールアップでエマルションを評価しよう【粘度の定義】」のページで紹介した回転粘度計では,具体的に評価できない領域になってきます。
そこで,特に製薬関係の業界においては,製品の流動学的性質を反映する特性値を得るためのより実用的な方法として,タイトルで示した「展延性試験法」が提案されています。
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化粧品においてもこのような考え方が活用できるかもしれないので,ここでは簡単にその内容について紹介したいと思います。
スプレッドメーター
展延性試験法は,「スプレッドメーター」という装置を用います。
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- 水平に置いた2枚の平行板のうち,下部に設置される固定板には中心からの距離を測定するための1 [mm]間隔の目盛りが刻まれ,中心部には試料を入れる円筒形の穴(0.5 [mL])があります。
- 上部に位置する荷重板は,ガラス製,アクリル樹脂製などの透明な材質の板で,115 [g]の質量を有しています。
- ピストンを押し上げると穴の底部が上昇し,試料が固定板面よりも上に押し上げられ,それと連動して荷重板が落下し,試料は固定板上で荷重板の重みで同心円状に広がります。
- その広がりの程度を測定することにより試料の流動性を測定することができます。
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解析方法
第十七改正日本薬局方第二追補では,次の2種類の方法が規定されています。
まずは,スプレッドメーターを用いた測定によって得られる流動性の特性値の意味と,式の使い方について紹介します。
一点法(Scottの式)
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一点法では,60秒後の最大広がり直径d∞を調べることになります。
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このとき,60秒後の最大広がり直径d∞が大きいほど,粘性が低く製剤が軟らかいことを示します。
📝[memo] 60秒後の最大広がり直径d∞が粘度低下する速さを示すと考えると,チキソトロピーを説明する上述した(赤線A)と(青線C)との違いを数値化したものとして取り扱うことができるかもしれません。
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また,上記の式を用いてスプレッドメーター降伏値YVを算出することになります。
スプレッドメーター降伏値YVが大きいほど,サンプルの流動に大きな力が必要なことを示します。
📝[memo] スプレッドメーター降伏値YVが粘度低下に必要な力を示すと考えると,チキソトロピーを説明する上述した(赤線A)と(緑線B)との違いを数値化したものとして取り扱うことができるかもしれません。
例えば,60秒後の最大広がり直径d∞が0.028 [m](= 28 [mm])であったとき,スプレッドメーター降伏値YVを計算すると15.94 [Pa]となります。
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多点法(Voetによる経験式)
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多点法では,時間ごとに測定した広がり直径d1, d2を調べることになります。
そして,上記の式を用いてスプレッドメーター傾斜Sおよびスプレッドメーター切片ICを算出することになります。
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このとき,スプレッドメーター傾斜Sが大きいほど,サンプルの流動が大きいことを示します。
また,スプレッドメーター切片ICが大きいほど,サンプルの粘性が低く流動が大きいことを示します。
📝[memo] スプレッドメーター傾斜Sやスプレッドメーター切片ICが粘度低下に必要な力を示すと考えると,チキソトロピーを説明する上述した(A:赤線)と(B:緑線)との違いを数値化したものとして取り扱うことができるかもしれません。。
例えば,10秒後の広がり直径d1が25 [mm],60秒後の広がり直径d2が28 [mm]であったとき,スプレッドメーター傾斜Sを計算すると3.86となります。
グラフから,スプレッドメーター切片ICとして21.15が得られます。
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スプレッドメーターを用いた測定によって得られる流動性の特性値の意味と式の使い方について見てきましたが,抽象的過ぎてあまりピンと来なかったと思います。
次に,これまでに紹介したいろいろな装置による分析結果から,エマルションの物性としてどのようなことがわかるかを考えてみたいと思います。