📚 (4-9) スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの粘度特性①】
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エマルションで見られる流動特性(せん断応力 vs せん断速度)
粘度ηは,せん断応力τとせん断速度ṙの比で表されることがわかりました。
そこで,せん断応力τとせん断速度ṙの関係についてもう少し掘り下げて考えてみましょう。
流体の粘度
式の形からも明らかなように,粘度ηが一定のとき,せん断応力τとせん断速度ṙは比例関係にありそうです。
📝[memo] ṙ = ητと式変形して考えます。
すなわち,せん断応力τが大きくなれば,その大きさに比例してせん断速度ṙも速くなります。
これは,流体を強い力で押すほど,より速く動いてくれることを意味します。
右図で言うと,(A)の直線のようになります。
このような直線は理想的であることから,「ニュートン流体」と呼ばれています。
📝[memo] 例えば,「ニュートン流体」として水が該当します。
次に,「スケールアップでエマルションを評価しよう【粘度の定義】」のページで紹介したB型粘度計による粘度測定を考えてみましょう。
「ニュートン流体」に該当するような製品においては,粘度測定をするにあたって測定条件をあまり気にする必要がありません。
…というのも,測定時のせん断応力τやせん断速度ṙに関わらず,「ニュートン流体」に該当する製品の粘度ηは一定となるためです。
しかしながら,多くのエマルションは(B)の曲線のような挙動を示します。
このような流体は「準(擬)塑性流体」と呼ばれています。
「準(擬)塑性流体」に該当するような製品においては,せん断応力τの大きさによって,傾き(=粘度η)は変化します。
すなわち,粘度測定をするにあたって,測定条件によって結果(=粘度η)が異なることを意味します。
そのため,測定条件を記載しておくことが好ましいと言えます。
例えば,「ローターはNo. 〇〇,回転数△△ r/min」のような記録をしておくと良いです。
準(擬)塑性流体
多くのエマルションが該当する「準(擬)塑性流体」の特徴について,もう少し考えてみたいと思います。
ニュートン流体(A)と準(擬)塑性流体(B)を比較します。
せん断応力τが小さな①の領域に着目します。
準(擬)塑性流体(B)はニュートン流体(A)よりも下に位置し,せん断速度ṙが理想状態より遅いことを意味しています。
すなわち,せん断応力τが小さいとき,ニュートン流体よりせん断速度ṙが小さくエマルションが流動しにくいことがわかります。
📝[memo] エマルションに対して弱い力で押しても,想定よりも全然動いてくれません。
次に,せん断応力τが大きな②の領域に着目します。
準(擬)塑性流体(B)はニュートン流体(A)よりも上に位置し,せん断速度ṙが理想状態より速いことを意味しています。
すなわち,せん断応力τが大きくなると,ニュートン流体よりせん断速度ṙが大きくなりエマルションが容易に流動することがわかります。
📝[memo] エマルションに対して強い力で押すと,想定よりも簡単に動いてくれます。
例えば,壁をペンキで塗ることを考えてみましょう。
ちなみに,ペンキは「準(擬)塑性流体」に該当します。
壁にペンキを塗布したとき,ペンキは重力に逆らって壁に付いたままです。
重力程度の弱い力では,ペンキはほとんど動かないと言えます。
📝[memo] せん断応力τが小さな①の領域で起こる現象です。
次に,壁に付いたペンキを刷毛(はけ)で動かしてみます。
すると,容易にペンキが伸びていくことが想像できます。
このように,人間の手のように強い力では,ペンキは容易に動くと考えることができます。
📝[memo] せん断応力τが大きな②の領域で起こる現象です。
エマルションはこのような性質を持っているため,粘度という物性値は製品化したときの使用性に影響を及ぼしているかも知れませんね。
エマルションで見られる流動特性(時間 vs 粘度)
続いて,せん断応力τを付与する時間tと粘度ηの関係について見ていきましょう。
多くのエマルションは,「準(擬)塑性流体」に該当しました。
そのため,強いせん断応力τを付与すると,下図の①の領域で示すように粘度ηが低下します。
その後,あるタイミングでせん断応力τの付与を止めると,青い点線のように元の粘度ηに回復していくはずです。
📝[memo] エマルションに対して強い力で押したときだけ,粘度ηの低下が見られました。
しかしながら,実際は②の領域で示すように,時間をかけながら徐々に粘度ηが回復していきます。
多くのエマルションで見られるこのような性質は,「チキソトロピー/チクソ性」と呼ばれています。
エマルションはこのような性質も持っているため,製品化したときの使用性に影響を及ぼしているかも知れませんね。
エマルションでこのような現象が見られる理由として,次のように考えられています。
①の領域においては,強いせん断応力τを付与すると乳化粒子の擬似的な凝集が破壊されます。
その結果,乳化粒子が動きやすくなるので粘度ηが低下します。
せん断応力τの付与を止めた②の領域になると,乳化粒子が凝集するのに時間を要します。
そのため,時間をかけながら徐々に粘度ηが回復していきます。
この考え方はあくまでも一例であり,必ずしも正しいとは限りません。
一つのイメージとして捉えてください。
「スケールアップでエマルションを評価しよう【スケールアップ成否の評価方法】」のページでも触れましたが,乳化粒子の大きさによってエマルションの粘度が影響を受ける可能性の話にも繋がります。
📝[memo] 「乳化粒子の擬似的な凝集」を「大きな乳化粒子」として考えることができれば,エマルションの粘度が乳化粒子の大きさに影響を受けることになりますよね。