📚 (4-7) スケールアップでエマルションを評価しよう【粒子径および粒度分布解析②】
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様々な粒子径
例えば,エマルション中に大きさが1~6の乳化粒子が存在すると仮定します。
そして,それぞれの大きさの乳化粒子を取り出すと,右表で示すような結果であったとします。
「スケールアップでエマルションを評価しよう【粒子径および粒度分布解析①】」のページでは,3つの粒子径を紹介しました。
📝[memo] 50%粒子径d50,個数平均径MN,体積平均径MVがありました。
ここではこのエマルションモデルを用いて,上述した3つの粒子径について掘り下げていくことを考えます。
50%粒子径 d50
最初に,それぞれの大きさの乳化粒子が占める「総体積」を計算します。
次に,計算した「総体積」を「総体積割合」として表すことにします。
すると,下表のようになります。
そして,小さな乳化粒子から順番に「総体積割合」を足していきます。
📝[memo] 例えば,粒子径1が占める「総体積」は0.6,粒子径2のときは11.0なので,小さな乳化粒子から順番に「総体積割合」を足すと粒子径2の時点で0.6 + 11.0 = 11.6となります。
このように足していくと,いずれ50%に達するときがやってきます。
このときの粒子径が50%粒子径d50であり,今回の事例ではd50 = 4.12となります。
すなわち,50%粒子径d50とは,粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき,その累積カーブが50%となる点の粒子径を言います。
📝[memo] 小さな乳化粒子から加算してちょうど真ん中(50%)になる点を粒子径としていることから,50%粒子径d50は「中央値」であるイメージができるのではないでしょうか?
個数平均径 MN
続いて,個数平均径MNについて見ていきましょう。
それぞれの大きさの乳化粒子の個数を数えます。
そして,「粒子径」と「乳化粒子の個数」の積「nd」を計算します。
その結果,下表の通りであったとします。
📝[memo] 例えば,粒子径3のときを考えると,d3 = 3,n3 = 4,n3d3 = 4×3 = 12となります。
「粒子径」と「nd」の関係を示したものが,緑色のグラフとなります。
粒子径が2のとき,一番大きなピークが得られます。
今回の事例では,個数平均径MN = 2.52となります。
それでは,なぜ粒子径が2のときに一番大きなピークが得られたのでしょうか?
それは,粒子径が2の乳化粒子の個数が一番多かったためです。
そのために大きなピークとして現れました。
したがって,個数平均径MNは粒子数が強く反映されると考えることができます。
📝[memo] 装置の原理から考えると,実際は得られた体積平均径MVから逆算して求めているようです。
体積平均径 MV
最初に,体積平均径MVについて見ていきましょう。
個数平均径MNと同じような考え方をしていきます。
それぞれの大きさの乳化粒子の総体積を求めます。
そして,「粒子径」と「乳化粒子の総体積」の積「vd」を計算します。
📝[memo] 例えば,粒子径4のときを考えると,d4 = 4,v3 = 67,v3d3 = 67×4 = 268となります。
その結果,下表の通りであったとします。
「粒子径」と「vd」の関係を示したものが,オレンジ色のグラフとなります。
粒子径が6のとき,一番大きなピークが得られます。
今回の事例では,体積平均径MV = 4.45となります。
それでは,なぜ粒子径が6のときに一番大きなピークが得られたのでしょうか?
それは,粒子径が6の乳化粒子の体積が一番大きかったためです。
そのために大きなピークとして現れました。
📝[memo] たった1個の乳化粒子しかないけど,大きなピークになる点に注目です。
したがって,体積平均径MVは占める体積が強く反映されると考えることができます。
📝[memo] 装置の原理から考えると,換算はしていますが生データに近いと考えられます。
スケールアップの評価
これまでに,3つの粒子径について考えてきました。
エマルション中の乳化粒子の大きさ・個数が同じであっても,粒子径が異なることが明らかとなりました。
それでは,スケールアップを考えるにあたって,どの粒子径を採用すべきでしょうか?
📝[memo] 平均粒子径に相当する「個数平均径MN」と「体積平均径MV」の2つが候補になります。
エマルションの品質について振り返り
ここで,エマルションの品質について振り返ってみたいと思います。
「スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの安定性(クリーミング)】」のページで述べたように,”クリーミング”という安定性が悪くなる現象がありました。
大きな乳化粒子は浮上しやすいので,”クリーミング”を促進することがわかりました。
また,「スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの安定性(凝集に伴う合一)】」のページで述べたように,”合一”という安定性が悪くなる現象がありました。
大きな乳化粒子は小さな乳化粒子と”合一”を繰り返すので,最終的に油水分離することがわかりました。
使用性に関して,「スケールアップでエマルションを評価しよう【スケールアップ成否の評価方法】」のページで述べたように,乳化粒子の大きさが均一でないと光の反射・散乱が異なるため,製品に色むらがあるように感じることがあるかもしれません。
大きな乳化粒子が存在すると,このような傾向が表れやすいと考えることができます。
このように考えてみると,大きな乳化粒子はエマルションの安定性・使用性に影響を与えることがわかってきます。
そのため,「大きな乳化粒子の有無を知りたい」というのが,粒子径及び粒度分布測定における一番の目的と言えそうです。
粒子径からスケールアップを評価する
大きな乳化粒子の有無を知るための最適な粒子径はどちらでしょうか?
結論から言うと,「体積平均径」が該当します。
体積平均径は占める体積が強く反映されるので,エマルションの長期安定性の目安になります。
すなわち,イレギュラーとなる大きな乳化粒子があったとき,すぐに粒子径として反映してくれるので活用しやすいと言えます。
📝[memo] この考え方は一例に過ぎないため,絶対に「体積平均径」でスケールアップを評価しければならないという意味ではありません。
📝[memo] 「個数平均径」は粒子数が強く反映されるので,最終的に調製できる乳化粒子の大きさの目安になります。
光学顕微鏡による観察
直接観察によっても,乳化粒子の大きさを評価することができます。
光学顕微鏡を使用すると,下図のような画像が得られます。
このような画像から,乳化粒子の大きさをや均一性等を目視で評価することになります。
このとき,顕微鏡観察においては,一番数が多い大きさの粒子が確認されます。
したがって,“個数平均径MN”に相当する粒子径であると考えることができます。
📝[memo] 測定で得られた値の是非を判断するために,顕微鏡観察を活用することができます。