📚 (4-4) スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの安定性(Ostwald熟成と合一まとめ)】
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乳化粒子同士が”接近”するとき
「スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの安定性(凝集に伴う合一)】」のページの続きとなります。
いきなり本題へ入ります。
乳化粒子を構成する物質が,少しでも水に溶解する性質を持っていると仮定します。
そうすると,乳化粒子同士が”接触”しなくても,小さな液滴1を構成する物質が水を介して大きな液滴2へ移動します。
すなわち,小さな液滴1より小さくなり,大きな液滴2はより大きくなっていく現象が見られます。
その結果,乳化粒子同士が”接触”するときと同じように,最終的には大きな液滴3が生成します。
このような現象を”Ostwald(オストワルド)熟成”と呼んでいます。
ただ,Ostwald熟成の原理については諸説あり様々な解釈がなされています。
不正確な点が多々ありますが,ここではイメージを掴むということでこのような解釈をしたいと思います。
乳化粒子を構成する物質が少しでも水に溶解する性質を持っている場合,乳化粒子同士が”接触”しなくても合一が引き起こされます。
このようなOstwald熟成が繰り返されると,最終的に油水分離することがわかります。
Ostwald熟成の起こりやすさは,次のように考えることができます。
- 分散質の溶解性 大 👉 Ostwald熟成(合一) 大
- 分散質の溶解性 小 👉 Ostwald熟成(合一) 小
すなわち,できるだけ水に溶解する性質を持っていない物質を選定すると良いと考えることができます。
ただし,実際には100%水と混合しない物質は存在しません。
したがって,大小関わらずOstwald熟成のような現象は引き起こされていると言えるかもしれません。
一方で,固体の溶解に関するFreundlich-Ostwaldの式からも,数学的に次のように理解することができます。
📝[memo] 難しい話なので,このような式が知られていることを前提とします。
- 粒子径d 大 👉 飽和溶解度 小
- 粒子径d 小 👉 飽和溶解度 大
すなわち,粒子径dが小さくなると飽和溶解度は大きくなり,Ostwald熟成が引き起こされやすくなることがわかります。
「スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの安定性(凝集に伴う合一)】」のページで紹介した合一と同じように,Ostwald熟成でも乳化粒子の大きさをできるだけ均一にすることがポイントになります。
凝集に伴う合一の因子と“機械的な力”
以上をまとめると,次のようなことがわかりました。
粒度分布
凝集に伴う合一を促進・阻害する力=機械的な力 👉 ”機械的な力”による影響を受ける。
分散質の溶解性
凝集に伴う合一を促進・阻害する力=処方的な力 👉 ”機械的な力”による影響を受けない。
すなわち,合一を引き起こす因子の中に”機械的な力”による影響を受けるもの(=粒度分布)が含まれていることがわかりました。
したがって,”凝集に伴う合一”はスケールアップの失敗時に見られる品質NGとなる事例であると解釈できます。
📝[memo] スケールアップ前後で乳化粒子の粒度分布が変化すると,”凝集に伴う合一”の起こりやすさが変化します。
エマルションの安定性に対する機械的な力の影響
これまで,「クリーミング」や「凝集に伴う合一」について考え,機械的な力による影響を確認してきました。
整理すると,下表のようになります。
ここで,これまでの流れを振り返ってみたいと思います。
”処方的な力”はスケールアップ前後で変化しないと考えるので,使用する撹拌装置が変わったとしても“機械的な力”を等しく与えること目指して考えてきました。
”機械的な力”は撹拌することを意味しており,エマルション調製時には”微細化作用”がメインに発揮されます。
特に,エマルション調製に対する機械的な力の役割は次の2つになります。
- 乳化粒子(油滴)の大きさを変化させる。 👉 粒子径・粒度分布
- 粘度を変化させる。 👉 粘度
特に,安定性に係る品質について考えてみると,「クリーミング」や「凝集に伴う合一」の問題がありました。
これらは”粒子径/粘度”や”粒度分布”の変化によって生じ得るので,機械的な力に影響を受けると考えました。
すなわち,スケールアップが上手くいかなかったときは「クリーミング」や「凝集に伴う合一」が生じ得ることを意味します。
こうした理由から,スケールアップ時における安定性に係る品質を評価するための手法として,”粒子径・粒度分布測定”や”粘度測定”が適しているのではないかと考察することができます。