📚 (4-3) スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの安定性(凝集に伴う合一)】
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凝集に伴う合一
次に,安定性の中でも”凝集に伴う合一”について掘り下げていくことにしましょう。
”凝集に伴う合一”とは,凝集やクリーミング等により乳化粒子が接近すると,界面が破壊されることによって乳化粒子同士が不可逆的に融合することを言います。
その結果,水と油が分離する方向へと進んでいくと考えます。
ここでは,”クリーミング”のときと同じように”凝集に伴う合一”について考えます。
果たして,“凝集に伴う合一”は“機械的な力”が変化することで引き起こされるのでしょうか?
機械的な力”以外”に起因する要因
凝集に伴う合一の要因について考えると,難しい内容が多く出てきます。
そこで,結論ありきで話を進めることになるのですが,機械的な力”以外”に起因する要因となる事例について紹介したいと思います。
📝[memo] これらの要因は”機械的な力”による影響を受けないため,スケールアップ時において考えなくてもよい内容となります。
乳化粒子間に障壁
凝集を防止できれば,合一は引き起こさないと考えることができます。
そこで,乳化粒子間に障害物となり得る化学物質を添加するアイデアです。
化学物質を添加≠”機械的な力”ですね。
界面活性剤の脱着
乳化粒子同士が接触しても,油水界面に吸着している界面活性剤(乳化剤)が脱着していなくならなければ,合一は引き起こさないと考えることができます。
そこで,乳化時にこのような性質を持った界面活性剤を使用するアイデアです。
界面活性剤を使用≠”機械的な力”ですね。
📝[memo] 乳化粒子を形成している膜を強くするイメージですね。
球状粒子間相互作用力:Hamaker定数
難しい言葉を使用していますが,要するに,そもそも乳化粒子同士が引き合う力が弱ければ合一は引き起こさないと考えることができます。
このときの力を球状粒子間相互作用力(凝集力)として考え,その力はHamaker定数というものによって決まります。
Hamaker定数は乳化粒子を構成する数密度(分子密度)に依存するので,”機械的な力”は関係ありません。
乳化粒子を構成する数密度(分子密度)≠”機械的な力”ですね。
📝[memo] 球状粒子間相互作用力について不正確な点が多々ありますが,ここではこのような理解で留めておきたいと思います。
機械的な力に起因する要因は?
これまで,機械的な力以外に起因する要因について紹介してきました。
「乳化粒子間に障壁」「界面活性剤の脱着」「球状粒子間相互作用力:Hamaker定数」は,機械的な力とは関係ありません。
スケールアップ時においては,使用する撹拌装置が変わったとしても“機械的な力”を等しく与えることが重要でした。
“機械的な力”の大きさによって”凝集に伴う合一”が引き起こされるのであれば,スケールアップの失敗時に見られる品質NGとなる事例です。
改めて,“クリーミング”は“機械的な力”が変化することで引き起こされるのでしょうか?
曲率とLaplace圧の発生
難しいタイトル名とLaplace圧という式の紹介から始まりました。
…が,これらは単にこれから説明する内容の根拠として示したに過ぎないので,ここでは無視して先に進みましょう。
あまり考えたことはないかと思いますが,大きさが異なる2つの液滴が存在するとして,次のような状態をイメージすることにしましょう。
粒子の界面を曲げる
小さな粒子の場合
小さな粒子の界面に注目します。
このとき,その界面は大きく曲げられていますが一体なぜでしょうか?
これは,粒子内部から大きな力(青矢印)で押されているので,界面は大きく曲げられていると解釈することにします。
大きな粒子の場合
大きな粒子の場合も同じように考えてみます。
大きな粒子の界面に注目すると,小さな粒子よりも大きくは曲げられていません。
これは,粒子内部から小さな力(青矢印)で押されているので,界面はそれほど大きく曲げられていないと解釈することにします。
乳化粒子同士が”接触”するとき
小さな液滴では粒子内部から押す力は強く,大きな液滴では粒子内部から押す力は弱いことがわかりました。
このような状態を踏まえて,小さな液滴1と大きな液滴2が接触したときを考えてみましょう。
このとき,小さな液滴1の方が大きな液滴2よりも粒子内部から押す力が強いので,小さな液滴1は大きな液滴2の中に入り込んでいくことがイメージできるかと思います。
すなわち,大きな液滴2は成長し,小さな液滴1は収縮します。
その結果,以前に小さかった液滴1が全て消失するため,大きな液滴2はより大きな液滴3となります。
このような現象を”合一”と呼んでいます。
大きさが異なる乳化粒子同士が”接触”すると,合一が引き起こされます。
液滴の合一が繰り返されると,最終的に油水分離することがかります。
合一の起こりやすさは,次のように考えることができます。
粒度分布 均一 👉 凝集に伴う合一 小
粒度分布 不均一 👉 凝集に伴う合一 大
すなわち,乳化粒子の大きさをできるだけ均一にすることがポイントになります。
風船内部の気体の状態変化
めちゃくちゃおまけの話ですが,ある入試問題を紹介します。
2023年度第2次学力試験(東京大学・物理)にて,次のような問題が出されました。
大小異なる2つの風船が繋がれているとき,バルブを開くと2つの風船はどうなりますか?
大小異なる風船であることがポイントです。
📝[memo] 似たような話がありましたよね。
- A. 2つの風船①② → 同じ大きさになる。
- B. 小さな風船① → しぼむ。大きな風船② → 膨らむ。
- C. 大きな風船② → しぼむ。小さな風船① → 膨らむ。
大きさが異なる乳化粒子同士が”接触”すると,合一が引き起こされることを考えます。
このとき,大きな液滴は成長し,小さな液滴は収縮しました。
…よって,答えは”B.”になると想像できます。
乳化粒子の凝集・合一と同じイメージですよね。
📝[memo] 小さな液滴では粒子内部から押す力は強く,大きな液滴では粒子内部から押す力は弱いことがわかりました。
🚩 [引用:http://sciencemuseum.jp/cp-bin/wordpress/2020/08/07/風船の実験/]