“吐出作用”や“微細化作用”の働き方

「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌による槽内の流動】」のページの続きとなります。

“吐出作用”や“微細化作用”については，「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌の考え方】」のページでも紹介しました。

ここでは層流や乱流との違いをイメージするため，”低速撹拌”と”高速撹拌”について新たな視点から考えてみたいと思います。

乱流域における撹拌作用のイメージ

低速撹拌

立っている人をゆっくりと押すことを考えます。

押された人は動き出すことができるので，これを“吐出作用”として捉えることにします。

高速撹拌

立っている人を勢いよく押すことを考えます。

押された人はその勢い（大きな速度差）によって転倒するので，これを“微細化作用”として捉えることにします。

層流域における撹拌作用のイメージ

低速撹拌

動かないように踏ん張っている人（＝高粘度流体）をゆっくりと押すことを考えます。

押された人は動き出すことができるので，乱流の場合と同様に，これを“吐出作用”として捉えることにします。

一方で，ゆっくりと押すだけでも大きな速度差が生じます。

踏ん張っているので，押された力を逃がすことができません。

その結果，押された人はその勢い（大きな速度差）によって転倒するので，これを“微細化作用”として捉えることもできます。

すなわち，高粘度流体に対して低速撹拌をすると，“吐出作用”に加えて“微細化作用”が付与されやすいことがわかります。

高速撹拌

立っている人を勢いよく押すことを考えます。

押された人はその勢い（大きな速度差）によって転倒するので，乱流の場合と同様に，これを“微細化作用”として捉えることにします。

高粘度流体を撹拌するための工夫

「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌による槽内の流動】」のページで，乱流が生じるような撹拌をしたい！というお話をさせていただきました。

一方で，高粘度流体を撹拌する場合は層流になりがちであり，停滞部が多くなり良い撹拌とは言えません。

そこで，次のような工夫を考えてみることにします。

大型の撹拌羽根を設けたり，撹拌羽根の数を増やす。

• 流体を動かしやすくすることができます。
• 低速撹拌であっても，微細化作用が生じやすいです。

槽内に障害物（動かない羽根＝邪魔板）を設ける。

異なる撹拌羽根を同時に使用する。

• 流体の不規則な流れ（＝乱流）を強制的に作り出すことを考えます。

高速撹拌機に接触させる。

• 流体を強制的に高速撹拌機へ近づけ，微細化作用を発揮させることを試みます。

真空練合装置

そこで，高粘度流体を撹拌するためには，真空練合装置を使用することになります。

”高粘度流体を撹拌するための工夫”でいうところの「槽内に障害物（動かない羽根＝邪魔板）を設ける」以外の考え方を採用したものです。

真空練合装置における羽根には，様々な組み合わせがあります。

ここでは，2つの事例をご紹介します。

写真（左）

• 低速撹拌機　フック型ブレード（2枚）
• 高速撹拌機　ディスパーミキサー（2基）

写真（右）

• 低速撹拌機　枠型ブレード（2枚）
• 高速撹拌機　ディスパーミキサー（1基）/ホモミキサー（1基）

プラネタリーミキサーによる製品の流動

真空練合装置における低速撹拌機は，プラネタリーに公転･自転をします。

そのため，このような撹拌機は”プラネタリーミキサー”と呼ばれています。

その結果，撹拌槽内のデッドスペースを極力なくし，高粘度流体を混合することができます。

動画（上）

• 低速撹拌機　フック型ブレード（2枚）
• 製品　紙粘土

動画（中）

• 低速撹拌機　枠型ブレード（2枚）
• 製品　紙粘土

動画（下）

• 低速撹拌機　ひねり枠型ブレード（2枚）
• 製品　紙粘土

プラネタリーミキサーの使い方

高粘度流体に粉体を分散させる事例を参考に，プラネタリーミキサーの使い方をご紹介します。

フック型ブレード

フック型ブレードはひねりが加えられています。

そのため，撹拌によって上げ方向または下げ方向へ原料を動かす吐出作用を持っています。

そこで，フック型ブレードにより粉体を動かして高粘度流体へ効率的に分散するためには，次の2つの手法が考えられます。

• 高粘度流体の上に粉体が存在するとき，粉体が下げ方向へ動くようにフック型ブレードを回転させる。
• 高粘度流体の下に粉体が存在するとき，粉体が上げ方向へ動くようにフック型ブレードを回転させる。

一方で，フック型ブレード同士が接近しても，一部分しかクリアランスが小さくなりません。

📝[memo]　点と点が接近するイメージです。

したがって，生じるせん断力は比較的小さいと考えることができます。

枠型ブレード

枠型ブレードはひねりが加えられていません。

そのため，撹拌によって上げ方向または下げ方向へ原料を動かす吐出作用は小さいと言えます。

そこで，高粘度流体の間に粉体が存在するようにして，できるだけ粉体が高粘度流体と接することが好ましいです。

一方で，枠型ブレード同士が接近すると，大部分のクリアランスが小さくなります。

📝[memo]　線と線が接近するイメージです。

したがって，生じるせん断力は比較的大きいと考えることができます。

ひねり枠型ブレード

上記フック型ブレードの上位互換です。

枠型ブレードによる大きなせん断力を付与しながら，撹拌によって上げ方向または下げ方向へ原料を動かす吐出作用を持っています。

大型の練合装置になるとフック型ブレードでは撹拌時に物理的なバランスを保つのが難しいので，このひねり枠型ブレードが好まれます。

📝[memo]　フック型ブレードは不釣り合いなので，撹拌時に練合装置が振動することがあります。

これらの考え方はほんの一例ですが，様々な視点から最適な撹拌羽根を検討していくことになります。