📚 (3-11) 撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌による槽内の流動】
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撹拌レイノルズ数
乳化撹拌装置に関する説明までさせていただきましたが,少しだけ撹拌の考え方へ戻ります。
撹拌による液の流動状態は,どのように考えると良いのでしょうか?
ホモミキサーや掻取ミキサーによって作り出される液の流動は,実際には非常に複雑な挙動を示しています。
📝[memo] ホモミキサーや掻取ミキサーについては,今後,少しずつ流動に関する技術紹介ができたばと思っています。
ここでは,一般的な考え方をイメージで捉えることを主目的として進めたいと思います。
代表的なものとして撹拌レイノルズ数が挙げられ,次のような式で表現されます。
撹拌レイノルズ数は,「慣性力」と「粘性力」のバランスであると理解することができます。
- 慣性力 👉 物体がそのままの状態を続けようとする性質
- 粘性力 👉 流体そのものの動きにくさ
層流
層流は進行方向以外の速度成分が0であるため,規則的な流れであると言えます。
このとき,文献によって異なりますが,撹拌レイノルズ数はおおよそ50未満を示します。
慣性力は粘性力より小さいため,流体は撹拌羽根にくっついたかのように規則的に流動します。
乱流
乱流は進行方向以外の速度成分があるため,不規則的な流れであると言えます。
このとき,文献によって異なりますが,撹拌レイノルズ数はおおよそ1000以上を示します。
慣性力は粘性力より大きいため,流体は撹拌羽根から離れ自由で不規則に流動します。
…以上,撹拌レイノルズ数について考えてきました。
それでは,なぜ撹拌レイノルズ数に着目したのでしょうか?
いろいろな考え方がありますが,撹拌レイノルズ数によって次の2つに影響を与えると考えられるからです。
- 撹拌時における流体の流動状態
- “吐出作用”や“微細化作用”の働き方
撹拌時における流体の流動状態
一般に,撹拌による悪い流れと良い流れがあります。
そこで,最初に流れの良否について確認したいと思います。
撹拌に不適 👉 水平回転(接線)流
撹拌羽根が回転すると,その周りをひたすらグルグルと回転する流れです。
これは,撹拌羽根と液の相対速度が小さく位置関係(距離)がほとんど変わらないため,効果的な混合ができていないとみなされます。
例えば,地球と月の関係を考えてみましょう。
月は物凄い速さで動いていますが,地球からの位置関係(距離)はほとんど変わっていないと言えます。
そのため,地球と月は同じ位置に存在して,撹拌でいうと混合できていないとして役に立たないことになります。
撹拌に有用 👉 軸流・放射流
こちらの事例は,撹拌羽根と液の相対速度が大きく位置関係(距離)が変わっています。
回転する撹拌羽根に対して上下方向に液の流れが生じると,良い撹拌と判断することができます。
したがって,撹拌機ではこのような流れを作り出すことを目指していくことになります。
撹拌レイノルズ数に伴う流動の変化
こちらは,撹拌羽根による液の流動状態を示した図を引用したものです。
斜線部は”層流”のときの流れを示しており,このような撹拌は停滞部が多くなり良い撹拌とは言えません。
一方,点部で示す”乱流”を生じるような撹拌では,容器全体が流動していることがわかります。
したがって,撹拌羽根と液の相対速度が大きくなるため,通常,乱流のほうが撹拌に有用であると考えることができます。
🚩 [引用:社団法人化学工学協会編『化学工学便覧』丸善,1988]
したがって,乱流を生じるような撹拌で吐出作用や微細化作用を発揮させることが望ましいです。
その結果,「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌の考え方】」のページで紹介した()内の状態を引き起こすことができます。
乱流によって,固体B同士の位置関係が変わっていることがわかります。
均一に混合するという役目を果たしています。
ここで注意しておきたいことは,物質を動かして位置関係まで変化させるためには,せん断力が必要になることです。
乱流は,液の相対速度が大きくなると説明しました。
液の相対速度というと,「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌をどのように利用するべきか?】」のページで紹介したせん断力を意味します。
したがって,混合の際に本来は不要であるせん断力を,最低限必要とすることがわかります。
“層流”や“乱流”を決める因子
これまでの考えから,層流は良くないので乱流を生じるような撹拌をしたい!というのがコンセプトになりそうです。
層流や乱流は撹拌レイノルズ数によって評価できます。
すなわち,「撹拌レイノルズ数を決める因子」=「“層流”や“乱流”を決める因子」と言えます。
撹拌に関する因子
撹拌に関する因子は,撹拌レイノルズ数の式から次のように考えることができます。
層流になりやすい条件
- 撹拌羽根の代表直径 👉 小さい
- 回転数 👉 低い
乱流になりやすい条件
- 撹拌羽根の代表直径 👉 大きい
- 回転数 👉 高い
撹拌羽根の大きさや回転数は撹拌機メーカーが決める仕様となります。
通常想定される使用方法であれば,自然と乱流が生じるような撹拌となるように考えられています。
そのため,撹拌を利用するにあたって,撹拌に関する因子はあまり深く考えないことにしましょう。
📝[memo] みづほ工業は回転数が高い高速撹拌機(ホモミキサー)を取り扱うメーカーですので,当社の撹拌装置では乱流が生じるような撹拌になっています。
流体に関する因子
流体に関する因子は,撹拌レイノルズ数の式から次のように考えることができます。
層流になりやすい条件
- 密度 → 低い
- 粘度 → 高い
乱流になりやすい条件
- 密度 → 高い
- 粘度 → 低い
これらは,実際に使用する製品によって決まってくる因子となります。
したがって,撹拌によって生じる層流や乱流は,実際に製造する製品の物性(密度や粘度)によって決定されることがわかりました。
そのため,撹拌を利用するにあたって,流体に関する因子は留意しておく必要があります。
例えば,以下は密度の一例です。
- パラフィン油 → 0.88 [g/cm3]
- 水 → 1.00 [g/cm3]
- 鉄 → 7.87 [g/cm3]
金属である鉄の塊を撹拌することはないので,製品の種類による密度の変動は0.8~8.0 [g/cm3]程度 = 10倍以下と言えます。
📝[memo] 酸化チタンのように製品中に金属粉として混合することはありますが,少量であることもあり,製品全体の密度が大きく変化するとは考えません。
例えば,以下は粘度の一例です。
- 水 → 0.001 [Pa・s]
- シャンプー → 2~3 [Pa・s]
- マヨネーズ → 15~20 [Pa・s]
製品の種類によって粘度が0.001~20 [Pa・s]程度 = 1000倍以上変化することがあり得るため,層流や乱流は粘度の影響を大きく受けると考えることができます。
したがって,高粘度流体の撹拌は難しい!という結論が導かれます。
各種撹拌羽根における停滞部(層流)
実際に高粘度流体を撹拌時するときは,停滞部が生じやすいことが明らかとなっています。
したがって,様々な工夫が必要となります。
🚩 [引用:社団法人化学工学協会編『化学工学便覧』丸善,1988]
高粘度流体の撹拌は難しい!というのは直感的にイメージしやすい内容でしたが,当たり前と思える内容を少し理論的に紹介させていただきました。
撹拌レイノルズ数はこのような現象を説明できる1つの指標と言えそうです。