一般的なクリーム・乳液製造工程

これまで，撹拌について様々な視点から考えてきました。

できるだけイメージできるような説明を心掛けてきましたが，実際は難しかったかもしれません。

ここでは，化粧品の一例であるクリーム・乳液製造工程を例にして，撹拌の考え方をどのように適用していくかについて見ていくことにします。

クリーム・乳液を工業的に製造するためには，次のような工程が一般的です。

加熱・溶解工程

最初に，油相と水相を調製する必要があります。

📝[memo]　乳化時に用いる原料は，「油の性質を持つ原料全て＝油相」，「水の性質を持つ原料全て＝水相」と大きく分類することができます。

そこで，油相と水相それぞれの調製に必要な原料を加熱・溶解する必要があります。

このとき，撹拌をしなければなりません。

乳化工程

調製した油相と水相を混合して，エマルションを調製する工程です。

このとき，油滴を生成する必要があるため，撹拌をしなければなりません。

冷却工程

エマルションの調製後，室温近くまで冷却します。

このとき，撹拌をすることになります。

充填・箱詰め工程

その後，撹拌とは関係ない工程を経て，最終的にクリーム・乳液の製品ができあがります。

撹拌を要する工程のイメージ

撹拌を要する工程について，「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌作用の使い分け】」のページで紹介したボールと坂道の関係からイメージしてみましょう。

加熱・溶解工程

“加熱・溶解”は，時間経過で自然に引き起こされる現象です。

📝[memo]　熱の出入りは，ほったらかしにしておいても自然に起こります。

したがって，ボールが坂道をゆっくりと転がり，原料が加熱・溶解されていくとイメージすることができます。

このとき，撹拌による吐出作用を与えることによって，ボールは坂道を速く転がすことができます。

すなわち，吐出作用のイメージです。

乳化工程

“乳化”は，時間経過で自然に引き起こされない現象です。

📝[memo]　液滴は，ほったらかしにしておいても自然に生成しません。

したがって，自然に何も起こらないので，ボールはその場に留まっているとイメージすることができます。

このとき，撹拌による微細化作用を与えることによって，ボールを強制的に持ち上げるような作用を与える必要があります。

すなわち，微細化作用のイメージです。

冷却工程

“冷却”は，時間経過で自然に引き起こされる現象です。

これは，加熱・溶解工程と同じようにイメージすることができます。

吐出作用のイメージですね。

このように考えてみると，撹拌を要する各工程において，吐出作用と微細化作用を使い分ける必要があります。

これは，各工程に応じた撹拌機を選定しなければならないことを意味しています。

それでは，撹拌機をどのように選定したら良いのでしょうか？

撹拌作用と回転数の関係

撹拌作用を考えるにあたって，一般的には次の考え方が知られています。

• 縦軸が長く撹拌エネルギーの多くを微細化作用に使用できるのは，回転数が比較的高い”高速撹拌機”が適しているとされています。今回の事例では，乳化工程で使用することになります。
• 横軸が長く撹拌エネルギーの多くを吐出作用に使用できるのは，回転数が比較的低い”低速撹拌機”が適しているとされています。今回の事例では，加熱・溶解工程と冷却工程で使用することになります。

このように，撹拌機の回転数がその性能を判断する1つの目安となります。

📝[memo]　 撹拌羽根の形状や製品の粘度によって例外はありますが，ここではわかりやすくこのように考えることにします。