📚 (2-8) 撹拌の立場から乳化をイメージしよう 【ギブス自由エネルギーと乳化現象②】
- #乳化撹拌装置
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ギブス自由エネルギーと乳化現象
「撹拌の立場から乳化をイメージしよう【ギブス自由エネルギーと乳化現象①】」のページの続きとなりますので,先にこちらのページをご覧ください。
界面張力を0にする
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ここでは何らかの方法で界面張力を0にすることができたとして,調製したエマルション(状態1’)について考えてみたいと思います。
(状態1)界面張力γ1′
先述した通り,何らかの方法で界面張力を0にすることができたとして,ここでは「γ1′ = 0」とします。
(状態1)表面積A1′
油滴となって存在しているので,ここでは「A1′ = A1 = 1000」とします。
(状態1)界面自由エネルギーG1′
界面自由エネルギーの式から,「G1′ = 0 × 1000 = 0」と計算することができます。
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同じようにして,水と油が分離した状態(状態2’)についても考えてみたいと思います。
(状態2)界面張力γ2′
先述した通り,何らかの方法で界面張力を0にすることができたとして,ここでは「γ2′ = γ1′ = 0」とします。
(状態2)表面積A2′
水と油が分離して界面の表面積が最小となっているので,ここでは「A2′ = A2 = 1」とします。
(状態2)界面自由エネルギーG2′
界面自由エネルギーの式から,「G2′ = 0 × 1 = 0」と計算することができます。
ここで,エマルションが油水分離するとして”ギブス自由エネルギー変化”を計算してみましょう。
(状態1’)→(状態2’)ギブス自由エネルギー変化ΔG‘
「ΔG‘ = G2′ – G1′ = 0 – 0 = 0」となりました。
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これは,エマルションが何らかの仕事をすることはなく,自発的に油水分離の状態にならないことを意味しています。
すなわち,界面張力が0であれば,界面の表面積の大きさに関係なく油滴(乳化粒子)は水中で安定に存在できることを意味しています。
こうした理由から,エマルションにおける界面張力を低下させ,できるだけ0に近づけようとする試みがなされています。
界面自由エネルギーを0にする
ここで,別の視点からエマルションを調製することについて考えてみたいと思います。
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「撹拌の立場から乳化をイメージしよう【界面自由エネルギーの考え方】」のページで紹介したように,界面自由エネルギーは”水と油の境界に界面を作ることができるエネルギー”と解釈しました。
そして,O/W型エマルションを調製すること=油滴を生成することと捉えることができるので,新たに水と油の境界がたくさん出来上がります。
この境界が存在するためには,上述した界面自由エネルギーが必要となります。
したがって,「撹拌の立場から乳化をイメージしよう【界面自由エネルギーと液滴の大きさ】」のページで紹介したように,界面自由エネルギーに相当する外部からの機械力(外部エネルギー)を付与しなければなりません。
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このように考えると,界面自由エネルギーが小さければ付与する外部からの機械力(外部エネルギー)も小さくて済むことがかります。
そのため,界面自由エネルギーを0にすることが理想的であると言えます。
そこで,界面自由エネルギーを0にするためにはどうすれば良いかというと,それは界面張力を0にすることです。
こうした理由から,エマルションにおける界面張力を低下させ,できるだけ0に近づけようとする試みがなされています。
📝[memo] 結局は,先ほどと同じ結論が得られました。
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界面活性“surface active”
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エマルションを安定化するためには,界面張力を低下させて0にしようとする考え方が出てきました。
そのため,何らかの工夫が必要になります。
界面張力を0にするためにはどうしたら良いでしょうか?
それは,界面張力を0にする(大きく下げる)物質を添加することです。
そのような物質について定義がなされていますので,文献から抜粋して紹介したいと思います。
📝[memo] 原文が英語で書かれているので,一部を抜粋して紹介します。
Substances which in dilute solution are adsorbed positively at the surface of a solvent, causing a substantial fall in surface tension, are said to be surface active with respect to the solvent.
… the slope of the γ against a curve at the origin i.e., −(δγ/δa)a→0, is often used as a measure of the surface active of the solute.
[引用:R. Defay, “Surface Tension and Adsorption”, Prentice Hall Press, 1966]
溶媒の界面に吸着して界面張力を大きく下げる物質は界面活性があるといい,−(δγ/δa)a→0がその大きさの指標となります。
併せて,−(δγ/δa)を説明している「界面活性の式」も紹介しますが,定義から理解するのはなかなか難しいですよね。
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ここではあまり難しい内容までは踏み込まず,乳化のポイントとなるところだけを押さえることにしましょう。
📝[memo] このページで述べる内容は”乳化”に特化した専門書やセミナー等で紹介されるものですが,撹拌に関連しそうなところまでに留めたいと思います。
乳化剤としての界面活性剤の働き
乳化現象について,自由エネルギーの視点から色々と考えてきました。
まずは,界面活性について順番に整理していくことにしましょう。
界面活性
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溶媒の界面に吸着して界面張力を大きく下げる物質は,”界面活性剤”と呼ばれています。
その分子は,水と仲が良い親水基(丸い部分)と油と仲が良い疎水基(ひも状の部分)から構成されています。
したがって,エマルションを調製するためには,乳化剤として界面活性剤の添加が必要になります。
界面活性の大きさは,”−(δγ/δa)”で評価できるとありました。
それでは,”−(δγ/δa)”とは一体何を意味するのでしょうか?

それは,界面活性剤活量(濃度)aと界面張力γのグラフの傾きを意味しています。
少量の界面活性剤の添加で界面張力を大きく下げることができれば,傾き−(δγ/δa)が大きくなるので界面活性が大きいと解釈できます。
ただし,界面張力を0にすることはできません。
界面活性剤活量(濃度)を大きくしても,界面張力はある一定値のままになります。
このような界面活性が大きい界面活性剤を使用できれば,効果的にエマルションを調製できそうですね。
さらに,界面活性剤の種類や濃度,添加時の温度等の検討が重要になってきそうです。
これ以降の考え方については,乳化に関する専門書へと譲りたいと思います。
エマルションを調製すること・安定化すること
ギブス自由エネルギーと乳化現象の考察から,明らかになったことを改めて整理しておきましょう。
大前提として,適切な界面活性剤を添加すると界面張力を低下させることができます。
そして,小さな乳化粒子を得るためには,自由エネルギーに相当する外部からの力が必要です。
📝[memo] 下図において,大きな乳化粒子を得る際は950のエネルギーが必要ですが,小さな乳化粒子を得るためには4950のエネルギーが必要です。
エマルションの調製
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乳化メカニズムについては「撹拌の立場から乳化をイメージしよう【エマルションの調製と機械的な力】」のページで紹介しますが,小さな乳化粒子を生成するために必要な撹拌によるエネルギーは,界面活性剤の添加前よりも小さくても済むようになります。
これが,エマルションを調製することにおけるメリットです。
📝[memo] 下図において,小さな乳化粒子を得るためには必要なエネルギーを4950 ➡ 0まで減らすことができました。
エマルションの安定化
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次に,調製したエマルションの安定性を考えると,界面張力が低下することで自由エネルギー変化を0に近づけることができるので,安定なエマルションを生成できるようになります。
これが,エマルションを安定化することにおけるメリットです。
📝[memo] 下図において,自由エネルギー変化が-4950 ➡ 0に変化して安定化することができました。
このように,界面活性剤は実用上安定なエマルション製品を製造するうえで,大きく寄与していることがわかります。
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